2 / 10

2. 第二章 転校生は笑わない

転校生が来たのは、四月の第二週だった。 「水瀬透さん、東京から転校してきました。よろしくお願いします」 颯は教室の後ろから、その少女を見た。 背が高くはなく、制服の袖が少しだけ長くて、黒髪をうなじで一つに結んでいた。顔立ちは整っているが、目が——なんというか、どこか遠くを見ているような目だった。笑っていない。口元は形だけ笑みを作っていたが、目の奥に感情の色がなかった。まるで透明なガラスを通して世界を見ているような、そういう目。 席は颯の隣だった。 担任の先生が「榊原、案内してやれ」と言ったので、颯は昼休みに水瀬透を連れて学校の中を一通り歩いた。職員室、体育館、図書室、購買。透は静かについてきて、必要なときだけ短く「ありがとうございます」と言った。余計なことを何も言わなかった。 颯も余計なことを言わない性質なので、二人の間にはずっと静寂が続いた。それは不思議と、不快ではなかった。 図書室の前で、透が立ち止まった。 「ここ、よく来ますか」と透は聞いた。 「たまに」と颯は答えた。「受験勉強で」 透はドアのガラス越しに図書室の中を見た。「本を読むのは好きですか」 「普通かな。嫌いじゃない」 透は少し間を置いてから、「そうですか」と言った。それだけだった。 屋上への非常階段を通りかかったとき、颯は何となく上を見た。そしてふと、この場所に誰かと来たことがあるような気がした。誰かと並んで——いや、違う。誰かの後ろについて、鉄の階段を上った。 誰の後ろに? 「どうかしましたか」 透の声で、颯は我に返った。 「いや、何でもない」と颯は言った。「行こう」 午後の授業の間、颯は時々視界の端に透を映した。透は授業中ずっと黒板を見ていた。ノートを取った。先生に当てられたとき、正確に答えた。それだけだった。笑わなかった。誰かに話しかけなかった。 休み時間、颯が窓の外を見ていると、透も窓の外を見ていた。 「桜、きれいですね」と透は言った。独り言のように。 「そうだな」と颯は答えた。 透は少しだけ、ほんの少しだけ、眉を動かした。 「あなたは、桜を見て寂しくなることはありますか」と透は聞いた。 颯は驚いた。そんな質問をする人間に、これまで会ったことがなかった。それに——正直に言えば、颯はまさに桜を見るたびに、理由のわからない寂しさを感じていた。 「なぜそんなことを聞く」 透は少し黙ってから、「なんとなく、そういう顔をしてると思ったので」と言った。 颯は返事ができなかった。 放課後、透は真っ直ぐ帰った。誰とも話さずに、一人で校門を出た。颯はその後ろ姿を少しだけ見送った。 何かが、引っかかった。 透の横顔を見るたびに、胸の奥で何かが揺れる。名前もわからない、形もわからない何かが。事故の前から消えているあの穴と、同じ場所で。 颯は首を振った。気のせいだ、と思った。 でも、翌朝学校に来て、透が教室の窓際に座っているのを見たとき、また同じ感覚が来た。 知っている、という感覚ではなかった。 もっと違う何か——たとえば、長い間探していたものが、目の前にある、みたいな。 颯は席に着いて、前を向いた。隣の席からは何の音もしなかった。
2. 第二章 転校生は笑わない — Vào Mùa Em Đã Quên | DinoNovel